塩竈のこと
塩竈に根ざし、塩竈から伝える。
創業から八十有余年。
矢部園茶舗は、地域のみなさまに支えられながら、
塩竈の地でおいしいお茶の香りと味を提供させていただいております。
お茶は一期一会。
時に和やかな会話とやすらぎをもたらします。
港町として1300年以上も昔から人々で賑わい、多くの都人の和歌に読まれるほどの憧れの地、塩竈。
みちのく、一の宮・塩竈神社のお膝元であるこの地で、お茶を商わせていただくことに、
塩竈・矢部園茶舗は最上の喜びを感じております。
塩竈に銘茶あり、矢部園あり。
お茶を通して、道の奥より、茶の文化を伝えてまいります。
遡ること奈良時代の世、奈良盆地を本拠地としていた大和朝廷の勢力は黄金の国・みちのくにまで及びました。そして、やがては朝廷の軍事防衛拠点となる〝城柵〟多賀城が築かれ、陸奥国府と鎮守府が設けられると、みちのくは朝廷の支配下に置かれるようになりました。
平城京を中心として、南に太宰府、北に多賀城と云われるほどの一大拠点。多賀城には、遠方からも多くの人々が訪れるようになり、その訪れた人々に上質な海産物を調達したのが、その頃すでに千軒の家が軒を並べ栄えていた港町・塩竈でした。
時は進み江戸時代の世、伊達騒動に端を発し、仙台城の城下町では遊郭の営業が禁じられ、それらが塩竈に移ったこと、さらに仙台藩第四代藩主・伊達綱村公は、仙台に向けた船荷は塩竈を経由するよう命じたことにより、港町・塩竈は〝花街〟としての活気も加わり、
これまで以上の賑わいを見せました。そして、その賑わいは千三百年を経たいまも、なお続いています。
千島海流と日本海流がぶつかり合う三陸東沖。
その潮目で獲れるメバチマグロは、鮮度、色つや、脂のり、旨味が申し分なく、塩竈にいる日本一の目利き人の目に適ったものだけが〝三陸塩竈ひがしもの〟と称され、ブランドマグロとして広く愛されています。
塩竈漁港は日本有数のマグロの水揚高を誇り、三陸東沖でマグロを獲った漁師たちの船が多く集まる港です。市内には「すし哲」をはじめとした、日本最高峰の〝食の仕事〟に打ち込む寿司の名店が点在しており、マグロはもちろんのこと、海鮮をおいしく召し上がっていただけます。矢部園は、そんな塩竈の格別な食卓を、おもてなしの心とともに、お茶で支えさせていただいております。
古くから東北鎮護・陸奥国一之宮として創建され、千数百年もの歴史を刻む塩竈神社。境内にある、国の天然記念物に指定される〝塩竈桜〟という八重桜は、咲き誇る美しさで塩竈に遅い春の訪れを知らせます。
その八重の花を神紋とする塩竈神社は、全国にある塩竈神社の総本社。潮流を司り、製塩の神徳を持つとされる塩土老翁神を主祭神として祀り、末社の御釜神社では古代より綿々と続く「藻塩焼神事」が、いまもなお執り行われています。
古代の製塩をいまに伝える由緒正しき神事は、海藻を刈り取り社殿に供える「藻刈」からはじまり、汲み取った潮水を竃に入れる「御水替」を経て、時間をかけ煮詰め粗塩を採る「藻塩焼例祭」と、塩竈の地名の由来につながる縁の深いものであり、街の歴史の深さを物語ります。 明治時代に志波彦神社が境内に遷座され、以来〝志波彦神社塩竈神社〟は、塩竈市民と仙台市民の心の拠り所となっています。また県外からも数多くの方々が訪れる観光名所です。
塩竈の風土をひも解くに欠かせない女流作家がいます。
江戸から仙台藩家臣只野行義に嫁いだ只野真葛(ただのまくず)がその人です。
友を捨て、父きょうだいのわかれ、楽しみをたちて、みちのくの旅におもむきたりし。
これは彼女の著書「独考(ひとりかんがえ)」の一節です。彼女は、敬愛する仙台藩江戸屋敷の医者を努めた父の進言にて、生まれ育った江戸を後にして、仙台へと嫁ぎました。江戸を発ち寂しさを抱くも、只野家に到着した彼女を待っていたのは、家族や親戚のあたたかく賑やかな歓待であり、美しい仙台の風土でした。彼女は夫の死後も終生この地に暮らしていました。
夫は生前、「むかしがたり書きとめよ書きとめよ」と彼女に文筆活動を勧め、参勤交代での留守中には、塩竈をはじめ、松島、七ヶ浜を巡り、塩竈神社の荘厳な姿を記し、
また日本酒浦霞の銘柄にもなっている「塩竈まうで」と題される紀行文や、自身の仙台での暮らし、その中での仙台の豊かな情緒を記した「みちのく日記」を残しました。彼女の作品の中でも、「松島のみちの記」は、空も海も見分けがつかないほどの朝凪の静かな海に小舟でたゆたい、四方に浮かぶ大小260島あまりの島々を眺め、小舟が進むたびに島々が散らばり離れたり、連なり重なったりする〝見飽きることのない〟島風景の妙に感動する様を描き、その描写は実に生き生きと、読み手に気持ちが伝わるものとなっています。 彼女の残した作品の数々では、塩竈の活気をうかがい知ることができます。
深き歴史のある街、古き良き風情と風土が残る塩竈には、さまざまな見所があります。
季節は春。満開の桜の下、重さ1tを超える御神輿が16人の男たちに担がれ市内を渡御する塩竃神社の壮麗な花まつり。渡御の最後には202段の急な石段を登り、その姿には感動を覚えます。
そして夏には、日本三景に数えられる松島湾の海原で催される
〝塩竈みなと祭〟。
このお祭りでは、志波彦神社と塩竈神社のそれぞれの御神輿が、2隻の御座船で、さらに100隻の共奉船を従え、松島湾を巡航します。前夜祭の花火と海の御神輿渡御は実に壮観です。
そして港町・塩竈では、四季折々の旬の魚を、寿司職人たちの最高の〝仕事〟よって、季節ごとにもっともおいしい状態でお召し上がりいただけます。板前との会話を楽しみながらのお食事は、おつなものです。
そして、お食事のお共には日本酒。歴史ある浦霞、阿部勘などの酒蔵が醸す地酒が、そのうまさをより引き立てます。
万葉の頃より、和歌に詠まれてきた千賀ノ浦、松島の風景をご堪能いただき、うまい魚と酒を味わいながら語り合う刻。塩竈には、そこに訪れなければ決して体感できない感動があります。